なんでポチョムキンをフォローしないんですか|泣くなぐ|クラクラ

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K1-3

「なんでポチョムキンをフォローしないんですか!?」

小鳥遊は酔っていた。
飲み会になるといつもこうだ。
酔ってリーダーである満につっかかる。クラクラ日本公式チームの飲み会の恒例となっている小鳥遊のポチョムキンフォロー演説を、メンバーはまた始まったかと苦笑する。

満は黙ったまま答えない。
酔った小鳥遊にはだんまりを決め込むのが一番だ。以前彼女の演説に朝まで付き合わされたことがある。普段はまっすぐで優秀な部下だが酒に酔ったらいただけない。

「私は構わんと思いますがね」

動画チームのリーダーが口をはさむ。
クラクラ日本公式チームは、「運営・動画・ブログ・イベント」の4チームで構成されていて、小鳥遊はブログチームに所属し、満はそのすべてを統括するリーダーだ。

Twitterにはどのチームからでも投稿できるようになっているが最終的に満の決裁が必要で、たまに変なツイートをしてしまうのは満が多忙で決裁ないまま投稿してしまうからだ。満ならあんな自転車投稿させない。

「何を言っているんですか、満さんがダメだと言ったらダメなんです。ね、満さん」

でた。満の腰ぎんちゃくの鉄平だ。
イベントチームに所属し、たまたまイベントリーダーの都合が悪く代打でクラクラアワードに出場してからは彼が公式の顔になってしまっている。とにかく事あるごとに満に同調する姿勢に小鳥遊は我慢できなかった。

満不在の中、公式チームでは「ポチョムキンを攻撃すべし」派が多数を占める中、満の意を酌んで(本人はそう信じている)クラクラアワードでポチョムキンを攻撃しなかったことはチーム内でも物議をよんだ。

あれはアワードをもりあげる意味でポチョムキンを攻撃すべきだった。後日小鳥遊は満に詰め寄ったが、満は「鉄平に代打を指示したのは俺だ。」とだけ答えたのであった。

ポチョムキンをフォロー…か。

飲み会の帰り、満は最終電車の窓の外を眺める。
そして自分がなぜポチョムキンをフォローしないのかを考えてみる。

「俺がポチョムキンをフォローしない理由をしったら、あいつは呆れるだろうか」

大和川満21歳。いまから20年も昔の話だ。

もう無理だよ。別れよう。
消え入りそうな声で、彼女に言った。
俺より6つ上の彼女。結婚の約束もしていた。

彼女と知り合ったのは中国留学中。
俺は高校を出て上海の大学に進学していた。
彼女はそこに1年間の語学留学でやってきたんだ。

6つ上とは思えない幼顔。後で聞いたら結構周りから人気があったらしい。そして、彼女には日本で待っている婚約者がいた。

好きになってはいけない相手。
最初は中国に慣れていない彼女に、(俺は彼女より1年早く中国に来ていた)色々と世話をしたのが切っ掛けで。最初は友達だったんだけど、いつしか、二人は意識しはじめた。

日本語が話せない小さな世界で、同じ言葉を話す同志。そりゃあ人恋しくもなるよね。1年間限定の恋。1年経ったら彼女は帰国して、婚約者のもとに戻る。

普段から日本に残した彼女の婚約者の話はタブーだ。触れてはいけないもの。でも気にせずには居られないもの。話題に出さない分、二人はよけいに意識した。そんな後ろめたさが、二人の恋を燃え上がらせたのかもしれない。俺にとって、初めての女性。いとしいひと。

半年が過ぎたころ。彼女は一時帰国した。
不安で堪らなかった。
彼女は今、婚約者とあっている。
どんな話をしているのか。
どんな顔をしているのか。
抱かれて…いるのか。

彼女からの国際電話。
電話口で泣いている彼女。
どうした、何があった?
俺との事がばれたの?
罪悪感で泣いているの?
俺が、君を泣かせているの?

そして、「婚約者と別れた」と告げる彼女。

その言葉を聞いたとき。
二人でいたとき決して言えなかった言葉が。
俺の口から自然とこぼれ出た。

「結婚しよう」

彼女は泣いて答えなかったが、電話の向こうでうんうんと頷いていることは俺には分かった。

其れからの半年間、幸せだった。
いろんなところを旅したし、いろんな話をした。

そして半年後、彼女は帰国した。
俺の卒業を待ってるね、って言って。

俺は若かったから。
とにかく早く彼女を迎えに行きたくて。
必死に勉強した。そして、飛び級した。

帰国して彼女と再会した時。本当に幸せだった。
就職を決め、彼女の両親に挨拶した。
そして、俺たちは婚約した。

今にして思えば、俺は大学出たての若造。
彼女は社会人を経験している6つ上の女性。
経済力や、結婚後のこと。年の差のこと。色々と不安があったのだろうか。彼女のプレッシャーはどれほどだったのだろう。6つ下の経済力のない勢いだけの男。好きではあるが心配もあったろう。自分で本当にいいのか、という思いもきっとあったんじゃないかな。

俺が帰国して4か月。
結婚の準備も整い始めたころ、彼女から電話があった。

「別れよう」

意味が解らない。
俺たち、結婚するんだろう?
式場だって先週決めたじゃないか。
就職だって決まったよ。上場企業だよ。

…なのに、「別れよう?」

その後のことは実はあんまりはっきり覚えていない。とにかくすぐに彼女の実家に押し掛けた。何があった?何が起こった?時間はずいぶん遅かったけど、そんなの構っていられなかった。若かったから、彼女の両親にご迷惑、なんて発想もなかったんだな。

彼女は、笑顔が可愛いひとだった。
でも、どこか本当に笑えていない気がしていた。なにかにおびえている感じ。よくわからないけど、自分の意見をはっきりと言えないひとだった。よく言えばおしとやかといえるかもしれない、でも俺は彼女になにか影のようなものを感じていた。

付き合ってしばらくして、だんだんそれが何なのかわかってきた。

彼女のお父さんはとても厳しく、進学、クラブ、就職、全てお父さんの意見に従ってきたらしい。そのお父さんにいつも怯えている。彼女の性格はそこにあるんだと自分なりに分析していた。そのお父さんから守ってやろう。もうお父さんに怯える必要はないよ、そう言いたかった。

彼女の家につくと、泣きはらした彼女と、頭を下げる例のお父さんがいた。とにかく泣く彼女。ただ謝るお父さん。何が何だかわからない。とにかく彼女と話をさせてください、と彼女と彼女の部屋に入る俺。

彼女は、浮気をしていた。
職場の営業マンとらしい。
そいつの話に、自分の殻を割られたらしい。
ハンマーで頭を殴られたようだってそういってたかな。

結納まで済まして、婚約者と別れてまで選んだ俺とまた別れる。

ああ、またお父さんにこっぴどくされるんだろうなって思ったとき。俺はなぜか彼女を守ることを優先した。

彼女に聞く。
「俺のことは嫌いになったの?」
さらに聞く。
「俺よりその彼を選ぶの?」

彼女はとにかく、俺と彼の間で揺れていた。そんな状態で結婚話を進めることは出来ない、そういう事らしい。今の俺なら馬鹿だなと、そんなのウソで彼女は既に彼を選んでるよって思うけどその時は俺必死でさ。なら俺を選んでもらえばいい、それまで待てばいい。そんな風に思ったんだ。

でも彼女のお父さんはそうはさせない。
首根っこつかんででも彼女と彼を別れさせて、俺との結婚を推進めるだろう。彼女と結婚したいなら、お父さんを味方につけてそのまま結婚もできたかもしれない。でもそれじゃダメなんだ。彼女をお父さんの呪縛から解放したかったんだ。21歳の俺、何様?青臭くて恥ずかしくなるけど、その青臭さが今は眩しい。

そして俺は提案した。

「このまま実家にに居たら、お父さんが無理やり俺との結婚を進めちゃう。それは駄目だ。だから二人で家を出よう。どこかで二人暮らししよう。その間、俺は君に手を出さない。君はゆっくり俺と彼のどちらを選ぶか考えたらいいから。」

…恥ずかしいわ。なんなんこの提案。
考えなしとはこのこと。
でも信じてほしい。俺は本気だった。

そして、泊まっていきなさいと言われた俺は早朝、彼女を連れだした。仕事をずるやすみし、彼女と部屋を探す。部屋を借りるなんて初めてで、とりあえず不動産屋にいって希望の部屋を伝える。

ほんとお金がなかったから。二人でしばらく暮らせたらよかったから、最低ランクの部屋でいいと不動産屋に伝える。

最初に紹介された部屋。
確かに安かったけど、めっちゃくちゃ汚い。
でも俺は構わなかった。だって安かったから。
でも彼女は一言、

「こんなところで暮らせない」

その時はじゃあ次の部屋みようか、って何も思わなかったけど。今にして思えばこの言葉が彼女の全てを表していたのかなって思う。俺は彼女のためならって、汚さなんて全く気にならなかったけど彼女は気になった。この差。この覚悟の差。なんか、つらいね。

結局二件目にみた部屋を借りることにしたんだけど、そうは問屋が卸さない。

部屋を借りるのに連帯保証人のサインがいるんだよね。当然彼女の両親に頼めるわけもなく、俺の両親に頼むことに。俺が急に彼女を連れて行くこと、詳しいことは後で話す事を告げると、親父はただ「わかったから直ぐに来なさい」とだけ。今思うと彼女の両親からも連絡があったはずなのに、慌てず大げさにせずただ静かに俺の話を聞いた親父。普段は頼りなくてバカにしていたけど、本当にあの時のことは感謝しています。親ってすごいなって初めて思った。

実家に戻り、とにかく連帯保証人になってほしいと訴える俺。訳もいわないのに納得できるはずもないのに、とにかく疲れているだろうから今日は彼女とともにゆっくり休んで、明日もう一度話を聞こうと言ってくれた両親。彼女の家には、すでに連絡していてくれた。本当に頭が上がらないよ。

疲れて俺の部屋のベットで寝入ってしまった彼女を残して俺は風呂に入った。

色々と考えた。
今日一日のこと、これからのこと。
そして、涙があふれてくる。
彼女のあの言葉を思いだした。

「こんなところで暮らせない」

彼女は、俺を愛していない。

本当はどうなのか、誰にもわからない。
でも俺にはあの言葉が決定的だったんだ。
彼女を守りたいと、お父さんからの呪縛から解放したいと願った俺が、今度は新しい呪縛になるんではないのか。そんな風にも思えた。このまま彼女の逃げ道を作ることが本当に彼女の為なのか。そう考えたらもう、無理だった。

寝ている彼女を起こして問いかける。

「今、決めてくれ。俺か彼か。俺を選ぶなら人生をかけて君と歩いていく」

そして、泣き続ける彼女。
10分たっても泣き止まない。
俺はあんなに、自分の言葉に気持ちを込めて思いを込めて発したことは無かった。
あの言葉は、俺の一生をかけた想いの言葉だった。それなのに。
彼女からの返事は無かった。

もう無理だよ。別れよう。
消え入りそうな声で、彼女に言った。

翌朝、両親と彼女を連れて彼女の実家に向かう。
両親と頭を下げて、娘さんとの結婚をなかったことにしてくださいと申し入れた。

ごめんな、親父と御袋にまで頭を下げさせて。

その彼女の名前が 屋島さん。
そう、ミライ・ヤシマと同じだ。
付き合ってた頃、彼女にそういったら「本当に満はガンダム好きね」って笑ってた。

俺はこの出来事以来、ガンダムが嫌いだ。
だから俺はポチョムキンをフォローしない。
小鳥遊が聞いたら、やっぱり呆れるだろうか。

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