僕は泣きながらクラクラをする|泣くなぐ|クラクラ

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K1-3

ここまでの”泣くなぐ”一気読み

またキールか。
満は臍を噛む。
「ボーリングの球のくせに。」

クリプロのキール。
いち早く本国公式の情報を仕入れ、Twitterで呟くクラクラリポーターだ。

彼をフォローしておけば、我々日本公式よりも早く的確にクラクラ情報が手に入る。なんて言われることは満にとって不本意極まりない。

新幹線で出会ったマリコ(スーパーセル社員)の働きかけで、クラクラ日本公式の業務委託契約をとりつけた満であるが、なかなか思うように活動できない。

スーパーセルからの情報が薄いのだ。
マリコを通して何度も情報公開方法の改善を打診しているが、明確な返答はない。

浮気を疑われ、マリコがへそを曲げた。
なんて誰にも言えない。
チューしてないんだから浮気じゃない。

「もういっそのこと、キール氏とポチョムキン氏を一緒にフォローしましょう!」

小鳥遊がまた騒いでいる。
(お前が原因なんだよ!マリコのお怒りは!)

心の中で満は突っ込む。
昼夜問わずメールで満にポチョムキンを推す小鳥遊。日本語をしゃべるが、読むのは苦手なマリコが疑うのも無理はない。

しかも、マリコが「この子、可愛いの?」と聞いてきたとき何の気なしにウン、と答えてしまったのが火に油だったらしい。

それ以来、マリコは満に冷たい。
わざと情報を遅らせているふしすらある。こわいこわい。女怖い。

まさか満の夫婦仲が、クラクラ情報の遅延に影響しているなどとだれも知らない。日本公式チームでも、渡以外知らない事実だ。

「事実は小説より奇なりぃぃいいぃ!」

気づくと鉄平が小鳥遊と何やら議論している。
たまに人の心を見透かしたかのようなことをベストタイミングで叫ぶ鉄平に何か悪魔的なものを感じる。怖いわ鉄平。

どうすればスパセルからの情報をいち早くキャッチできるかの議論の様だが、マリコの機嫌を直さないことにはほぼ無理だ。

それ以外に逆転ホームランの道はない。

…逆転ホームラン。
満の脳裏に、昔の恋が浮かび上がる。
あの時も大変だったな。
会議中にも関わらず、満は笑ってしまった。

君が部屋を出て行った日に、
僕は泣きながらクラクラをする。

彼女に出会ったのは大阪に戻って間も無くの頃。

勤めていた商社が親会社に吸収されて本社異動になったのだ。3年ぶりの大阪に不安と期待で一杯だった。

1日で部屋を借りなければいけない。
取り敢えず堀江で手頃な部屋を決めた。
家賃12万。
大阪では中々のもんだろう?
ただお洒落なだけの生活感ない部屋。
俺一人だけの部屋。

料理が全くダメな俺は毎日外食で済ませていた。

箸すらない部屋。
朝は引越しの翌日、近所で見つけたお洒落なパン屋さんでと決めていた。

毎日決まった時間に、
決まってクロワッサンを買う俺。

お目当てはもちろん、そこで働いていた娘だ。

いつも朝早くから笑顔の彼女に、
いつの間にか惹かれていた。

笑顔が相武紗季似の彼女。
その笑顔のために、パン屋に毎朝通った。

ある朝、意を決して会計の時に彼女に小さなてんとう虫のオモチャを渡した。

少しでも印象付けたかったんだ。

全く反応が無い‥まずい、警戒された。
後で聞いた話だけど、この時彼女は
「やばい、他のスタッフに知られたくない!」
と瞬時に判断しててんとう虫に気づかないフリをしたのだ。

失意の俺。
会社への足取りは重い。

普通ならここで諦めてパン屋に通わなくなるもんなのだけど、俺は違った。

だってここのパン屋のファンなのですと言わんばかりのタフさで通い続ける。

後で聞いた話だけど
「なんだこいつ」と思ったらしい。

ある朝、彼女にメモを渡した。
俺の名前とアドレスを書いたメモ。
押しの一手。ここで諦めたら試合終了だもん。
それは嫌だ。
けれども待てども待てども来ないメール。
やはり運命の女神は俺に微笑まないのか。

普通ならここで諦めてパン屋に通わなくなるもんなのだけど、俺は違った。

更に通い続けたのだ。
だってパン、美味しいよ?
そしたらなんと‥彼女から話しかけてきた。

「あの‥メールしたんですが」

後で聞いた話だけど、
俺にからかわれたと思ったらしい。

ただ、自分のアドレスを書き間違えただけなんだけど。

そしてすかさずもう一度アドレスを渡す俺。
やっと繋がった。

最初のデートはなぜか彼女と彼女の友達と俺。

彼女、そうとう警戒していたらしい。
壺とか、宗教とか。
後で聞いた話だけど彼女の友達は
「悪い人ではないけど、あんたの好みでは無いね」と俺を批評したらしい。

ほっとけって。

何回かデートして、堀江の喫茶店で付き合ってほしいと手を差し出す俺。

なかなか握り返さない。
断られる‥そう思ったけど手は引かなかった。

俺が絶対手を引かないと悟った彼女。
友達からなら、と手を握り返してくれた。
温かい手。弾む心臓。

後で聞いた話だけど、
彼女は初めて人と付き合ったらしい。

ユニバーサルスタジオ、映画、プラネタリウム。

二人は確実に二人の時間を重ねていった。
あの日まで。君が出て行くあの日まで。

その日は変だと思った。
仕事が終わってすぐ俺の部屋にきた。
電話の感じで何か変だと思った。
付き合いはじめて半年はたっていたかな?
そして彼女はこう切り出した。

「別れよう」

寝耳に水だった。
意味がわからない。
俺は彼女との未来も考え始めていたというのに。

彼女は俺の気持ちは嬉しいが、自分の気持と大きな温度差があると言った。

その温度差が苦しいとも。

俺は、覚えていないんだけど咄嗟に別れたくないと、考え直してほしいと土下座したらしい。

土下座なんて意味無いのに。
格好悪いだけなのに。
ただ彼女を繋ぎ止めたかった。
そんなの、無理とわかってたのに。

そして、俺たちは別れた。

君が部屋を出て行った日に、
僕は泣きながらクラクラをする。

彼女を失った喪失感はとても大きく、食欲も無くなった。

10KGは痩せたろうか。
想像以上のダメージだ。

別れて1ヶ月。
電話もメールもせず、けじめをつけていた俺だったけど、どうしても一目彼女に会いたくなった。

こっそりとなら、見つからなければ。そんな女々しい思いで、彼女の働く姿を覗きに行った。

以前と変わらぬ彼女の笑顔。
気がつけば涙が溢れ出ていた。
傍から見ればさぞかし危険な人物に見えただろう。

そして彼女に声をかけることなく立ち去った。
さようなら。
この時の心の痛みは、まだ鮮明に覚えている。

家に帰っても心ここに在らず。
クラクラにも気持ちが入らない。
彼女と別れて俺は死人だった。
ところがその日、彼女からメールが届いた。

「もし、あなたの気持ちがかわらないなら、手遅れかも知れないけれどもう一度やり直したいです。」

そう書かれていた。

俺がどうしても我慢できなくて彼女を見にいったその日に、同じように彼女からメールが届いた。

運命を感じたんだ。

(君が再び部屋に訪れた日に) 僕は泣きながらクラクラをした。

「泣き落としなりぃいぃ!!」

鉄平の言葉に、満は我に返る。
またお前か。
本国にいち早く情報をもらうのに、泣き落としとかないわ。

とにかく、今晩マリコに電話しよう。
手配した花は、もう着くころだろうから。

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